「冬の星座」を聴きながら

 今年の正月に「年があらたまって」と題したブログを書いた。今年で終えた年賀状の代わりにしたいとの思いであった。それから1ヶ月が過ぎて、昨日は節分そして今日は立春である。団地の梅も咲き始め、近所の菜の花畑にも黄色の花が目に付くようになってきたから、春ももうすぐなのだろう。しかしながら、今日は朝から小雨模様なので肌寒い。外に出たら凍えるような寒さである。暖冬と言われていても、もうしばらくはこんな天気が続くのかもしれない。明日は関東の平野部でも雪が積もるとの予想なので、そうなったら、滅多にない雪景色を撮るために、カメラをバッグに入れて近くの公園に出掛けるつもりである。

 ところで、先のブログだが、その終わりに何時も付録のように添えている写真の他に、歌を2曲入れておいた。しばらく前にそんなことをよくやっていたこともあったが、この頃は思い付いた時だけである。2曲の内の1曲は、昨年亡くなった谷村新司を偲んで「昴」をいれた。この歌を聴くと、自分の人生が思い返されて胸が熱くなる方も多かろう。名曲である。歌詞も素晴らしい。「蒼白き頬」の「我」は、星団を構成する「昴」と別れ、「砕け散る運命(さだめ)」の「名も無き星たち」の明かりを頼りに、誰も見えない「荒野に向かう道」を一人歩むのである。この曲を聴くたびに、自分はそんなふうに道標なき道を歩んできたのであろうかと、何時も自問する。

 今回書きたいのはこの「昴」の話ではなく、もう一つの曲「冬の星座」にまつわる話である。ここにも「昴」は登場するのでブログに入れてみたのだが、思い入れはこちらの曲の方がずっと強い。この冬繰り返し何度も聞いた。そして、冬の夜空を何度も仰ぎ見た。文部省唱歌だから随分昔に学校で習ったはずだが、その頃には特段の思いは抱かなかった。調べてみると、中学校の音楽の教科書に掲載されたのは1947年だとある。私が生まれた年である。いい歌だなあと思ったからこそ記憶に残っているわけだが、それ以上のものではなかった。ましてや、「冬の星座」が出来上がったいわれなど知る由もなかった。

 それが忘れられない曲となったのは、昔々に原曲の英語の歌詞が書かれた一枚の紙片を、家人から手渡されたことがあったからである。この曲の紹介文には、堀内敬三日本語訳詞、ウイリアム・ヘイス作曲とある。ネットで検索してみると、原曲は、19世紀に活躍したアメリカの作曲家ヘイスによる Mollie Darling で、モーリーという女性に対する男の恋心を歌ったラブソングである。かれのヒット曲らしい。冒頭の歌詞を訳文付きで紹介してみよう。カントリー・ミュージック調の曲なので、今聞くといささか甘さを感じる軽い曲のように思われるのだが、それが「冬の星座」へと変身を遂げたのであるから驚きである。訳詞者の優れた才能に感嘆するばかりである。

  Won’t you tell me Mollie darling,
 That you love none else but me?
 For I love you Mollie darling,
 You are all the world to me.

 愛しのモーリー
 僕だけを愛してるって言っておくれ
 君を愛してる 君は僕のすべて

 O! tell me, darling, that you love me,
 Put your little hand in mine,
 Take my heart, sweet Mollie darling,
 Say that you will give me thine.

 愛してるって言っておくれ
 僕の手を取って 気持ちを感じて
 君の心が欲しいんだ

 こうなると、訳詞者の堀内敬三という人物にも興味が湧く。ネットで検索してみると、作曲家、作詞家、訳詞家、音楽評論家として著名であると記されていたが、それ以外にも実に博学多才の人だったようである。学歴はミシガン大学卒とあり、マサチューセッツ工科大学の修士課程でも学んだとのこと。裕福な家に生まれたことが、彼のような人物を育んだのかもしれない。よく知られた曲の訳詞を始め、校歌の作詞・作曲も多数手掛けているが、彼の名を不朽のものとしたのはやはりこの「冬の星座」の訳詞に違いあるまい。無限の宇宙を描き出す文語調の格調高い歌詞が、聴く者を虜にする。「地上に降りしく」「奇(くす)しき光」や「無窮をゆびさす」「北斗の針」に、静まりかえった美しき冬の夜空がくっきりと浮かび上がってくる。

 「冬の星座」は名曲なので多くの歌手が歌っているが、この間あれこれ聞いたなかでこの訳詞に最も相応しいと思われたのは、土居裕子(どい・ゆうこ)というソプラノ歌手の歌声である。透明感のある安定した声量なので、宇宙の果てなき拡がりが何とも的確に表現されている。ゆったりと上昇した歌声が息継ぎのために一瞬静止するところがあり、そここそが彼女の歌の聴き所なのではあるまいか、そんな気がした。この静止によって、深い夜空に飲み込まれていくような錯覚を覚えるからである。そして付け加えておきたいのが、伴奏の素晴らしさである。この曲が文部省唱歌を超えるものになっているのは、そのためでもあろう。

 私は堀内敬三の名は知っていたが、歌っているこの女性歌手についてはまったく知らなかった。彼女は女優でもあり、また唱歌や童謡などたくさんの曲を歌っているようだが、曲調が単純だったり歌詞が幼かったりして、「冬の星座」を超えるものは見当たらなかった。堀内敬三の歌詞と土居裕子の歌声がミックスされて、「冬の星座」は不朽の名曲となって地上に降り立ったかのようである。あらためて歌詞と歌声を紹介しておこう。ついでに、「冬の星座」の引き立て役となったかのような原曲も…。

 木枯らしとだえて さゆる空より
 地上に降りしく くすしき光よ
 ものみないこえる しじまの中に
 きらめき揺れつつ  星座はめぐる

 ほのぼの明かりて 流るる銀河
 オリオン舞い立ち スバルはさざめく
 無窮をゆびさす  北斗の針と
 きらめき揺れつつ 星座はめぐる