市民の会で挨拶を頼まれて

 先日、トーク19区市民の会が主催した「ハープと講演の集い」に出かけてきた。場所は宮前市民館の大会議室である。田園都市線の宮前平駅から結構急な坂道を登ったところにある。なぜ出かけたのかと言えば、市民の会の集まりの最後に閉会の挨拶を頼まれていたからである。トーク19区市民の会と称する団体はどんな団体なのか。衆議院の神奈川選挙区は20あるが、そのうちの第19選挙区は川崎市に属する宮前区と横浜市に属する都筑区からなる。

 行政区を超えた選挙区というのは珍しい。この19区で市民と野党の共闘を目指す団体として組織されたのが、トーク19区市民の会である。全国的な市民組織としては「市民連合」がよく知られていると思うが、この「市民連合」の主張に共鳴し、その主張を下から支える運動体だと言ってもいいのかもしれない。現実にどれだけ幅が広がっているかは別にして、できるだけ幅の広い運動体を目指していることは言うまでもない。

 この会は、これまでにも選挙のような大事な政治課題があるたびに、宮前区と都筑区で交互に講演会を開催してきた。それぞれの区に市民の会があるので、宮前区で催し物がある場合には、宮前区の市民の会の代表が開会の挨拶をし、都筑区の市民の会の代表が閉会の挨拶をする、都筑区で催し物がある場合にはその逆となる。両方の事務局の方々が、できるだけ対等で平等な関係を維持したいと思っているからであろう。

 私は現在地元の都筑区にある市民の会の代表を務めている。代表とは言ってもまあお飾りのようなもので、区の市民の会の会合がある際に司会進行係を務めたり、今回のように両区にまたがる集まりが開かれた際に、開会あるいは閉会の挨拶をする程度である。実質は事務局の方々が大変ななか切り盛りしている。しかしまあ、お飾りとしての役割もそろそろ切り上げたくなっており、都筑区の代表も今回の挨拶を最後に辞退しようと思っている。私としては、すべての肩書きを捨ててもっと自由にのびのびと振る舞いたいのである。

 今回開かれた「ハープと講演の集い」では、ハーピストの西村由里さんの演奏の後、ジャーナリストの金平茂紀(かねひら・しげのり)さんの講演があった。私はテレビに縁遠い人間なので、金平さんの姿をテレビで拝見することはなかったが、彼の著作は少しだけ読んだことがある。テレビのキャスターを務めるジャーナリストだけあって、今我々の目の前に広がっている様々なホットイッシューに広く目を配り、切れ味鋭くその動向を分析した話であった。聴衆は190人ほど集まったのでほぼ満席となった。大勢集まると参加者も元気になる。テレビに登場するような著名な方の講演であったから、大勢の人が集まったのかもしれない。彼は実にフットワークの軽いアクティビストでもあるようなので、そのことも聴衆に感銘と勇気を与えたようであった。

 私のようなマイナーポエット好みの人間にとっては、今日本と世界で何が起こっているのかという話も大変新鮮で面白かったが、それ以上に興味が沸いたのは、インターネット上でユーザー同士が交流するSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の隆盛によって、コミュニケーションのありようが大きく変容していることに、金平さんが危機感を抱いていたことであった。私流に言い換えれば、「反応」はあっても「思考」がない世界の広がりである。あるいは「見る」ことはあっても「学ぶ」ことのない世界と言ってもいいかもしれない。年寄りの戯言を承知で言えば、まことにくだらない世界ではある。

 そんな話はともかく、今回は宮前区での集まりであったので、私の役回りは閉会の挨拶であった。今回は少し趣向を変えて初めての試みに挑戦するつもりであった。挨拶文をパソコンで作成し、それをスマホに転送してスマホを片手に持って話してみようと思ったのである。最近若い方がよくやっているようだし、報道記者もニュース番組でよくやっている、あのやり方である。文明の利器を活用しているので、紙の原稿を手にしているよりも何となく格好良く見える。

 そのつもりで壇上に上がったのだが、私の前にまとめの話をされた宮前区の事務局長の田中さんが、時間が押せ押せになっているということで、自らの話を簡潔に纏められたので、次に登壇した私は、スマホをポケットから出して挨拶を始めるのがためらわれた。読み始めると長くなりそうであり、長い挨拶で迷惑をかけるわけにはいかないからである。そこで急遽スマホなしでごく手短に話すことにした。こうして、スマホを活用して挨拶するというは初めての試みは不発に終わった。ただ、スマホには準備した挨拶文が残っているので、以下ではその準備したものを紹介してみたい。

 都筑区の市民の会の代表を務めております、高橋です。今日の集会の最後に一言閉会の挨拶を述べさせていただきます。長い閉会の挨拶など無粋でしょうから、できるだけ簡潔に述べさせていただきます。オープニングでの西村さんの素晴らしいハープの演奏、どうもありがとうございました。そしてメインの講演でお話していただいた金平さん、どうもありがとうございました。たいへんお忙しいなか、こうしたささやかな市民の会に顔を出していただき、本当にありがたく思っております。
 
 今日の金平さんの講演を聴きながら思い出したことは、昔知ったthink globally act locallyという言葉です。地球大の視野、そして足下での着実な行動。今市民に求められていることは、そういうことなんだなあとあらためて感じた次第です。金平さんの講演は、集会参加者の皆様方がグローバルに考えローカルに行動するうえできっと役に立つものとなったに違いありません。大事なことは「覚える」ことではありません、「学ぶ」ことであり「考える」ことです。私たちが市民としてあろうとするならば、自分の足で立ち、自分の頭で考え、自分の声を発しなければならないのでしょう。私も意欲的に行動される金平さんに勇気づけられました。

 今日の講演会のタイトルに、「未来は変えられる」とありました。たいへん大事なことかと思います。すべてチェインジャブルなのではないでしょうか。都筑区の市民の会のチラシにも、興味深いスローガンがありました。一つは、「私たちは政治に無関心でいることはできても、政治に無関係で生きていくことはできない」というもの。そしてもう一つは、「私たちは微力ではあるけれども無力ではない」というものでした。それぞれに含蓄のある言葉かと思います。

 来る7月20日は参議院選挙の投票日です。選挙は政策を巡る戦いですが、同時にそれを伝える言葉の戦いでもあります。いつ、どこで、誰に、何を、どのように伝えるのかが問われております。とりわけ大事なのは、どのようにということでしょう。工夫が求められています。今日の集会に参加された皆様方が、自分の言葉を紡ぎ多様な語り口で、周りの多くの人々に語りかけていただけることを願ってやみません。以上をもちまして閉会の挨拶とさせていただきます。長時間にわたった集会に最後までご参加いただき、どうもありがとうございました。