パブリックコメントを書く

 4月から5月にかけて、短い文章を二つ書いた。そのうちの一つが、今回ここに投稿するパブリックコメントである。横浜市がカジノ誘致問題で大揺れの状態にあることは、このブログでも一、二度触れたことがある。誘致の是非を選挙で問うこともなく、「白紙」と言い続けてきた林市長は、昨年夏に突然誘致を表明したのであるが、とんでもない振る舞いだと言う他はない。そのとんでもない振る舞いを繕うかのように、市は各区ごとに住民説明会をやったり、市民にパブリックコメントを求めてきた。

 住民説明会は、コロナウイルスの感染問題が広がったこともあって、現在は中断されたままであり、私の住む都筑区でも何時開催されるのか未だ不明である。開催せずに強行することは難しかろうから、やることはやるのだろうが、果たしてどうなることやら。そんなところに、横浜進出に意欲を見せてきたアメリカの著名なカジノ企業が、コロナ騒動で業績が悪化したこともあって進出を断念したとのニュースが飛び込んできた。

 今となっては、不要不急の代物であることは勿論だが、訪日外国人富裕層もあてにし、しかも3密の典型のようなカジノの誘致など、もはや成長戦略になどなりようはずもない。何をかいわんやである。にもかかわらず、市はこれまで通り誘致に向けての準備を進めていくのだという。こんなものに、何時までも依存症のようにしがみついている林市長が、何とも哀れである(笑)。

 ところで、パブリックコメントとは、広く市民の意見を聞きそれを政策に反映させる仕組みのことである。よくパブコメなどと略称されている。私はこうした略称を使うことをもともと好まない質なので(日本語として美しくないと感じるからなのであろう)、そのままパブリックコメントと呼ぶことにしている(笑)。選挙で是非を問う機会などいくらもあったのにそれを避けてきた市長が、パブリックコメントを尊重するなどとはとても思えなかったが、せっかく意見の表明を求められているのだから、私もこの機会に書いてみることにした。以下の文章がそれである。

 市長は、カジノの誘致を正式に表明してのち、市民に丁寧に説明すると言い出しました。私はそれは話が逆なのではないかと思います。決めてしまってからから説明するのではなく、決める前に市民の声を聞くべきでしょう。それが民主主義のイロハのはずです。市長は議会に諮ったと言っていますが、市長提案のカジノ誘致に賛成した議員で、昨年春の市議会議員選挙でそのことを政策に掲げた議員は一人もおりません。市長の提案が示されていないのですから、当然と言えば当然です。議会は市長の提案だからと言い、市長は議会の同意を得ているからというのですが、どちらもカジノ誘致の問題で市民の意向を問うてはおりません。こうしたものを馴れ合いと言うのではないでしょうか。

 市長はカジノという言葉を使いたくないようで、IR(複合型のリゾート施設)だとしきりに言っています。カジノはその中のごくごく一部の施設に過ぎないというわけです。それなら、カジノなしのIRを考えたら良さそうなものですが、それは出来ないと言う。また、IRが国家的なプロジェクトであり、重要な成長戦略であり、その収益で市の税収が増えて横浜市民の豊かな生活に貢献するといったようなことも語っています。

 そんなに立派なものならば、正々堂々と「私はカジノに大賛成です」と自信を持って言ってはどうでしょうか。しかしそうは言わない。隠そうとしているのです。何故そうなるのかと言えば、カジノがかなり怪しげなものであることをよくご存知だからでしょう。ギャンブルでの掛け金の上がりを当てにしたようなものが、まっとうなビジネスモデルや成長戦略であるはずがありません。

 カジノの誘致は、市長も述べておられるように、横浜の将来に大きな影響を及ぼすような大問題です。そうした問題に決着を付けるのは、市民の意向であるはずです。市民の声をきちんと聞いたうえで、落ち着いて慎重に判断してもらいたいと思います。それこそが、市民に対する「おもてなし」と言うものではないでしょうか。幸いにも来年には市長選挙があります。その際に、林市長がIRの誘致を掲げて立候補され、市民の意向を問うたうえで正々堂々と誘致を進められては如何でしょうか。市長の英断を望みます。

(追 記)

 先日知り合いから興味深い新聞記事のコピーをもらった。『神奈川新聞』の2020年3月6日号に掲載された、元自民党県連会長といったいささかいかめしい肩書きを持つ梅沢健治さんという方の論稿である。勿論私とは政治信条は別であるが、そこに書かれた内容に関して言えば、カジノ誘致を巡る問題点をあまりに鋭く指摘しているように思われた。少し長くなるが、大事な部分のみを紹介しておきたい。

 「私は横浜へのカジノ誘致に反対だ。計画の撤回を求める。子どもの頃『悪銭身に付かず』と教わった。お金は、額に汗して働いて得るものだ。反対理由の第1は、ばくちで人から巻き上げた汚い金を、横浜市が市民生活のために使うことに心が耐えられないからだ。第2は経営や治安悪化への懸念だ。市は、業者の算定を大幅に下回る場合も含め。何通りのシミュレーションを行ったのか。第3に、金儲けさえできれば国民は喜ぶという政府の考え方をつぶしておきたい。放置すれば、30年後の日本は見る影もないだろう。自民党地方議員よ。次の選挙を考えてみよ。有権者の多くは、カジノはいらない、現政権の横暴と堕落はもう許容できないと思っている。市井の人々の声なき声を地方議員こそ感じ取らねばならない。自民党からカジノ反対の声が出なければ、自民党は見限られる」。

 保守の良心とも言うべき実に真っ当な指摘であり、私も同感である。何の異存もない。考えてみれば、まともな保守の人が大々的な賭博行為であるカジノなどに賛成するはずはないのである。カジノの誘致に狂奔する人々は、もはや保守ですらないと言うべきか。「ふるさとに正義を残して死にたい」と語る梅沢さんの遺言のような言葉を、林市長はいったいどのような思いで聞くのであろうか。たっぷりと晩節を汚してきた彼女なので、今更引き際の美学などに興味はないのであろうが…。