理事長奮戦中!

 団地の管理組合の『広報誌』は、年に3回発行される。各理事は、そこに自分の担当する業務に関して何かを書くわけだが、理事長の場合も同じである。1号には就任の挨拶、3号には退任の挨拶を書くことになる。ではこの2号はどうだろう。2号が出る頃には、理事会の任期は半ばを過ぎている。この時点に立っての思いを素直に吐露するならば、ようやくここまで来たかということになるだろう。楽しみながらやってきたわけでは勿論ないが、うんざりしながら嫌々やってきたと言うわけでもない。任期はまだ半分近く残っているが、この調子で何とかやっていけそうな気配もようやく生まれてきた。この間管理組合が対応してきたそれぞれの業務に関しては、担当の各理事が詳しく紹介してくれるはずなので、私は少し別なことを書いてみたい。

 この半年の間随分といろいろなことを経験した。それにともなって、いろいろな人と知り合いとなり、あれこれのところで助けてもらった。団地には建った当初から住んでいるわけだから、団地に関することをそれなりに知っていていいはずである。しかしながら、私はと言えばこれまで団地のことにほとんど関心を払ってこなかったので、何も知らないに等しい。言ってみれば新米の理事長のようなものである。そんな人間が、その立場上、知らなくてもいいしまた知りたくもないことまで知ることになってしまった(笑)。

 この間の出来事を、いささか面白おかしく、かつまた自虐的に綴ってみよう。まず印象深いのは、普段手にすることのないような立派な理事長印を押し続けて、右手の親指がちょっとおかしくなったことである。立派なのは印鑑の方であって、勿論理事長の方ではない(笑)。続いて、あれこれとわからないことがあると、ほぼ毎日のように管理事務所に顔を出して、菅井さんのアドバイスを仰いだことである。知り合いで口の悪いSさんからは、「たいした用事もないのに菅井さんと会ってるね」などと冷やかされたこともある。新米理事長の苦労も知らない人が口にする「妄言」である。「猛省」を促したい(笑)。

 それから、メールをよく書いた。メール魔にでもなったかのような気分である。遅い朝食のあとパソコンを開くと、どどっとメールが届いている。欲しくもないメールばかりである(笑)。団地もだいぶ老朽化が進んできたので、あちこち壊れるし、台風の被害に加えて落雷まであった。弱り目に祟り目というものであろうか。理事長として出さなければならない返事は、さっさと出し続けた。また、あれこれの会合にも顔を出した。何だかミーティング・マシーンのように感じた時期もあった。

 会社勤めの経験もない新米にも似た理事長なので、営繕のことも、緑のことも、会計のこともまったくのちんぷんかんぷんである。これまで仕事の上では世の中のことを訳知り顔で語ってきたくせに、そのほんとうの姿を知らないのである。口さがないDさんからは、「社会常識がないのよねえ」などと酒の席で冷やかされたこともある。言われてみればまさにその通りである。少しは社会常識を身に付けるべく、会計の石田さんからは、懇切丁寧なレクチャーを受けて会計のさわりを勉強させてもらった(笑)。専門家というものは実に大したものである。

 月に一度の理事会に出れば出たで、一端口を開いたらそう簡単には話が収まらないマンション管理士のFさんがいる。マシンガントークとはこのことかと妙なところで感心した。名人なのは「そば打ち」だけではないようで、団地のあちこちに眼を配っている「団地名人」のS監事もいる。この二人に加えて、緑や営繕に関しては一家言どころか二家言、三家言もありそうな語り部のK理事もいる。これらの何とも老獪過ぎるメンツに囲まれて、新米理事長は振り込み続け、ハコテンにでもなりそうな気配であった。もう少し理事長を持ち上げて、接待麻雀を心掛けていただくことはできないものであろうか(笑)。この三人に比べたら、副理事長のNさんのなんと優しいことか。嬉し涙がこぼれるほどである。

 外では外で、この私の悪戦苦闘ぶりも知らないで、「退職して何もすることがないよりは、理事長の仕事があってよかったんじゃない」などと宣う、知り合いの女性Tさんのような実に太っ腹な人もいる。もはや四面楚歌である。こういう時にこそ笑いが必要である。博多華丸大吉の格言めいた決め台詞の一つに、「低い低いと思って高いのが尿酸値とプライドですな」というのがあるが、図星なのでかなり笑える。私が苦労するのは、なんだかんだ言ってもプライドが高いからなのであろう(笑)。先の格言を忘れずに残りの任期を務めあげたいと思っている。

 こうしたいささか悪乗りが過ぎる文章を書くと、もしかしたら眉をひそめる方がおられるかもしれない。そうであれば頭を下げるしかないのだが、こんなことを書いているようなら、新米理事長も思いのほか元気なんだなあと思って、お許し願いたいものである。

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